コエンザイムQ10の発見と広まり
コエンザイムQ10は医薬品やサプリメント、そして化粧品などに配合され、よく知られています。しかしその歴史についてはあまり知られていないようです。コエンザイムQ10は1950年代に発見された比較的新しい物質です。ここではコエンザイムQ10の歴史を振り返ってみましょう。
コエンザイムQ10の発見
1957年、アメリカのウィスコンシン大学の研究所でF.L.Crane博士らが、牛の心臓のミトコンドリアから、脂溶性物質の単体分離に成功しました。この物質は電子伝達系の補酵素(coenzyme)であり、10個のイソプレンという化学構造を有しているところからコエンザイムQ10と名付けられました。
1958年、イギリスのR.A.Morton博士らが、ラットの肝臓から得た物質がコエンザイムQ10と同じであるという報告を行っています。この物質は生物界に広く分布するキノンの構造を有する化合物であることから、ユビキノンと命名されました。ユビキノンとはラテン語で「普遍的にある」という意味のユビキタス(ubiquitous)を語源とした名前です。
同年、コエンザイムQ10とユビキノンは同じ成分の物質であることが突き止められ、アメリカのK.Folkers博士らが、化学構造を決定しました。
ここに至るまでの間、世界中の多くの学者が研究を続けてきましたが、コエンザイムQ10は構造が複雑なため、合成することは難航しました。またのちにコエンザイムQ10を量産するのにも、計り知れない苦労がありました。
日本でのコエンザイムQ10の歴史
日本では日清製粉の故・府川秀明氏の研究グループが、海外でのコエンザイムQ10の情報に興味を持ち、量産化へのプロジェクトを開始しました。
しかしやはりコエンザイムQ10の配列が特異なため、日本でも合成するのは非常に困難を極めました。
そんな中、研究グループの一員が桑の葉の脂質に9個のイソプレンの配列がある物質を発見し、精製して10個に伸ばし世界で初めてコエンザイムQ10の合成に成功したのです。研究を始めてから約10年、1967年のことです。
医薬品、サプリメントとしてのコエンザイムQ10の歴史
コエンザイムQ10はその後、量産されるようになり、医薬品やサプリメントとして世界中に広がり始めます。
1972年には臨床実験により、心臓病の人はコエンザイムQ10が不足していることが報告されました。
1973年、日本でうっ血性心不全の医療用治療薬として世界で初めて認可され、1980年代にはヒトを対象としたコエンザイムQ10の臨床研究が盛んに行われるようになります。
1991年に日本で一般用医薬品として薬局での販売が認められると同時に、世界中でサプリメントとして広く流通するようになり今日に至ります。
日本で食品としての利用が認可されたのは2001年に入ってからで、健康食品としては比較的新しい部類に入るといえるでしょう。
発見されてから人工的に合成、量産できるようになるまで10年の歳月を要したコエンザイムQ10は現在、医薬品、健康食品、サプリメント、化粧品などに幅広く利用されています。